
フレグランズトークvol.9 西田二郎(前編)『香りは自由でいられる最後のツールかもしれない。あ、これいい話ですね(笑)』
『香りは自由でいられる最後のツールかもしれない。あ、これいい話ですね(笑)』

20年以上にわたり、かの名番組「ダウンタウンDX」のプロデューサーを務めた西田二郎さん。読売テレビの社員でありながら、Njという名義で歌手としてメジャーデビュー、今年3月にはマキタスポーツさんとの共著『バカともつき合って』が大ヒット。テレビ局の枠を超えて、リクルーティングやさまざまな未来へメディアの取組みを模索する「未来のテレビを考える会社」の代表幹事を務めている。
素早く考え動く西田さん、香りについてどんな思いがあるのでしょうか。と、お聞きしようとしたら意外にもフレグランショットについてかなり深堀りしていただく結果になりました。
――今年4月に発売されたマキタスポーツさんとの共著『バカともつき合って』(主婦の友社)が好評ですね。
おかげさまで! ご存知の通り、これは堀江貴文さんと西野亮廣さんの『バカとつき合うな』(徳間書店)の公式便乗本で、お二人からも「おもろい!」言うてもらってます。お二人の本は読者の方々へ「こうあるべき」と提示する人生の指南書みたいな感じになってたかと思いますが、僕とマキタスポーツさんの本は「こういう生き方もあるねん、答えは出なくていいよね」って内容なんです。現代の本はとかく、「こうあるべきだろ!」と答えを出しちゃって、また、買う方々もそれを求めるのが常識になってるけど、そこへ向けて「異常識」を伝えたかったんです。

――「異常識」とはいうまでもなく、西田さんご本人のキーワードですね。
なんとなく、世の中が二元論的に常識と非常識にきっぱり分けられている傾向があるじゃないですか。文化とか価値観って、そんなにきれいに分けられるものじゃなくて「多様な常識」があっていいと思てるんです。「異常識」を認めたり、許容したりする世の中にならないと、ちょっと短絡的すぎるよねっていうのが本で言いたかったことですね。僕やマキタさん生き方を成功のルール化として捉えてほしいんじゃなくて、「こんな人でもいい感じに生きてこれたんや!」からの、「なぜそうやって生きてこれたんか」というエッセンスを見てもらえたらいいんです。
僕自身、読売テレビの社員でありながら、「社員」というイメージからはみ出すような活動をずっとしてきていますから。
――とても読みやすくて、スラスラ読めるけれど奥が深い本だと感じました。
まあ、便乗という形を装いつつ「分かる人には分かるよね」という感じで作っています。これ、僕の番組作りとかでもそうなんやけど、全部分かってもらえるようにしすぎると、今度は分かる人が分かってくれなくなる。「分かってんのに、なんでこんなていねいにすんねん!」って。だからその一歩手前の不完全さが大切かなと思って、読む人がいろいろ解釈できるように作っているつもりです。
人生ハウツー本ってだいたい、格言が並んで「あれはあかん、これはこうすべき」という生きる方法論みたいなのが書いてありますよね。僕らの本は、子どもの頃のことから仕事を始めた頃、仕事をしている頃……って全部具体的だけど、答えは書いてなくて抽象化してる。だから「深い」って言っていただけるのも、読む人に考える余地を残したからかと。僕自身、完璧なプロダクトに魅力を感じないんです。少し不完全さがあると、そこに自分が関与できる理由があるから、自分のピースを足りない部分に足し込んで、自分のものにできる気がするんです。

――西田さんが22年間プロデューサーを務めた「ダウンタウンDX」でもそのようにしていたのですか?
そうですね、ダウンタウンのおもしろさの片鱗、フレーバーみたいなものが伝わればいいと、そこは大切にせなあかんところかなと思ってました。伝えすぎるとうっとうしいってなりますから。視聴者が見た瞬間には伝わらなくても、フレーバーが心のどこかに残っていれば、少ーしずつ、コーヒーのフィルターからポタポタ……って落ちるような感じで、何年かあとに「ダウンタウンDX」ってコーヒーやってんな、それも結構苦味があふれるやつや、って分かってくるような。それがバラエティの表現かなって思ってやってたところがありますね。
1クールで伝え切らなければならないドラマと違って、バラエティは同じ形で続くんです。だから毎回伝わりきらせないし、答えも出さないんです。視聴者は「答えがあるんだろうな」って思いながらずっと見ていて、いっしょに旅しているような……。そんな思いでやっていました。
――全部を伝えるのではなく、想像させる余地を残すわけですね。
そうです。そういう意味では、この「フレグランショット」もええ加減でとめはりましたね、表現を。
――表現、ですか?
そう。これは、製品をどういうコンセプトで作ったかが気になりますよ。僕ね、自分ではオムフレグランスつけません。なんでかっていうと、オムフレグランスって「オレや!」なんですよ。
香りが「オレは男性やで!」って言うてるんです。たとえて言うなら家で過ごしていたら急に扉開けて入ってきて「おい! 遊びに行こうぜ」っていうような感じなんです。「えっ、オレまだパンツ履いてないし、飯食ってるし……」って言っても「なんやねん! おい! おい!」ってぐいぐい来る。なんていうか、男性って匂いを足すことで自分を完成させるんですね。オムフレグランスは、主張が強いものが多い。足されたもののほうが強いから、匂いが成り代わって「オレや!」って自己主張してる。だけど、この「フレグランショット」の絶妙な、主張しない加減、自分から嗅ぎにいきたくなりますもん。

――なるほど! ちなみに女性用のフレグランスはどうですか?
女性用はまた別ですよ。男性は不完全な自分を補完するためにフレグランスを付けて「オレ」になる。女性は存在が完結してるから、補完するためにはつけない。相手に向けて「ワタシ」をアピールするためにつける。さっきのたとえで言ったら、いきなり扉は開けないで「ピンポーン」ってチャイム鳴らして、こっちが「誰?」いうたら「ローズ(の香り)ですぅ」言うてちょっとだけ扉開けて顔見せる。「あ、ローズか、上がっといで〜」。そんな感じ。フレグランショットはそっちに近い。
――フレグランショットは「おい、オレ!」じゃない?
そう思いますね、いや、普通のオムフレグランスが「オレ!」だっていうのも、フレグランショットを嗅いだから分かったのかもしれない。
コンテンツ論で話すと、香りって個人の思いが強いメディアだと思うんです。音とか目で見るものなんかは、内容がシーンごとに分かれてて、自分がどのコンテンツに関わるかが見えやすい。でも香りは感覚でしか選べなくて、すごく抽象化が強いコンテンツだから、個人それぞれの思い出に直結していけるものになると思うんですよ。テキストのコンテンツなんかより抽象度が高いから、刺さる人には強いコンテンツになると思うんですよ。
僕は匂いって生き方が作ると思っているから、「オレ!」的なフレグランスで自分を補完するためにつけるってことは、匂いの強さに負けて、そういう生き方を見せていると思う。でもフレグランショットは、つけた人が関われる余地があるから、生き方とフレグランショットの匂いが合わさって、その人本来の生き方を匂わせることができるように思えるんです。これ、3本セットで買って、シーンで使い分けしたいと思う人がいると思いますよ、そういう風に使える香りですよ、これ。

――いろいろな方から感想を聞いていますが、ここまで奥深い感想をいただいたのは初めてです。大抵の方は「あんまり香りが強くないからつけやすい」という感じでした。
いや、正直最初は、「主張強い香りなんかな、あんま嗅ぎたくないな」と思ってました。嗅いだら感想言わなあかんから。もちろんそれでも、通り一遍に普通に香りの話をして「香りの要素って人生を豊かにするものですよね」くらいのことを言ってだいたい終わらせることはできる。でも嗅いだら、「え? ウソ! こんないい感じの加減で来る!?」ってなったから、こんないろいろ話してます。今日話していることは本当に感じてることで嘘偽りありません。
いろんな方が「香りが強くないからいい」って言わはるってことは、やっぱりみなさん本能的には分かってらっしゃるんですよ。言語化できてないだけで、本質は分かってる。本質を感じてるってことは、香りは枠にはめられず、感じられる部分がある、つまり自由でいられるってことでもありますよね。もしかしたら香りは自由でいられる最後のツールかもしれない。あ、これいい話ですね(笑)。
――西田さんだったらエフダッシュ製品にどんなアプローチをするのでしょう? 興味あります。さて、フレグランス以外の香りについても伺いたいのですが、なにか特定の匂いで忘れられないものはありますか?
うん、やっぱり土臭い匂いですかね。雨が降って、土の匂いがわーっと匂ってくるじゃないですか。あの匂いをかぐと、一瞬で17歳の頃に連れて行かれる感じがありますね。そして、そこには必ずYMOが流れてるんです。いや、15歳ぐらいだったかもしれない。梅雨時か夕立か、雨がバーッって降ってきて土の匂いが立ってきたときにちょうどYMOが流れていたってことだと思うんですが。今考えるとむちゃくちゃですね。あんな都会的な音楽に土の匂いって。今でも「ライディーン」聞くと土の匂いが感じられますもん。音楽に匂いがつくっていうのは、ありますね。
――テクノポップと土、両極端が結びついたような。
もともとね、YMOってあの「赤い人民服」にしてもパロディでしょ。外国の人から見たら、日本人も中国人も同じに見えるやろ、ほんなら人民服着てやったらええやん、って僕は思うけど、違いますか? 聞いてる方は「かっこええ!」っておしゃれのつもりで真似してたりするけど、少しずつズラしてるんですよね、あの3人(YMO=細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一)は。理念をそのまま出すとうっとうしいけど、ファッションに持っていったからそこがカッコいいんだと思うんです。
土とYMO。意外な匂いの思い出の話はまだ続きましたが、このあと「女性の香水は誰にでも好きっていうてるようなもん」「モテるために香りを使うのは姑息」「人生A面B面論」など、さらなるキーワードが満載の話が続きます。後編をお楽しみに。

プロフィール:西田二郎(にしだ・じろう)
讀賣テレビ編成局チーフプロデューサー。「11PM」「EXテレビ」演出を経た後「ダウンタウンDX」を22年間演出。以後、制作会社へ出向し数々の放送局の番組制作に関わる。タレントに頼らないバラエティ「西田二郎の無添加ですよ!」で民放連盟賞優秀賞。2015年より営業企画を経て現職。テレビ局の枠を超えて、リクルーティングやさまざまな未来へメディアの取り組みを模索する「未来のテレビを考える会」の代表幹事を務めている。またクラウンから歌手名義Njとしてメジャーデビュー。
text:Mikiko Arikawa photo:Daisuke Yanagi