フレグランズトーク vol.04 杉本格朗 『体にも心にも。漢方と匂いがもたらす効き目』

「体にも心にも。漢方と匂いがもたらす効き目」

鎌倉市大船で70年続く漢方薬局「杉本薬局」の3代目・杉本格朗さん。漢方に興味を持ってもらおうと、国内外でワークショップを開いたり、漢方に関する書籍『鎌倉・大船の老舗薬局が教える こころ漢方』を出版するなど、活動の場を広げています。

幼い頃から漢方薬の香りに慣れ親しんだ杉本さんは、匂いには人一倍、敏感。お店には心身の悩みを抱えるお客さんがやってきますが、一人一人の匂いも手がかりに、漢方薬や自然薬を提案することもあるのだとか。そんな杉本さんに、漢方や体と匂いの関係や「淡い青春の香り」について伺いました。

 

――学生時代は薬学ではなく、芸術を学んでいらしたんですね。

総合大学の芸術学部で、染色や現代美術を学んでいました。在学中はインターンシップでスイスのテキスタイルミュージアムに行ったり、ロンドンのファッションデザイナーのアトリエでお手伝いしたりもしていました。染色ではいろいろな染料を混ぜて好みの色を出すのですが、混ぜて何かの一つのもの作っていく、漢方にも通ずる「調合」が、好きでしたね。

 

――どうして漢方を研究するようになったのでしょうか。

卒業後も制作活動を続けていましたが、26歳の頃、父が体調を崩し、バイトがてらお店を手伝うようになりました。そこから初めて漢方の勉強を始めました。しかし、勉強して、漢方の話をしても、当時の若い友人たちには、なかなか必要とはされず……。いま思えば勉強不足で、若い人へのアプローチができていなかったんだと思います。それから、「どうしたら漢方を身近に感じてもらえるか」と考え、イベントで漢方を使った料理やお茶を出したり、漢方と染色に使われる植物の研究を始めました。漢方って聞くと敷居が高いけれど、「おいしく飲めるんだ」「食べられるんだ」「香りを楽しめるんだ」「いい色が出るんだ」ということをきっかけに、今まで興味がなかった人が漢方に触れてくれたらいいなと思って。漢方の入り口を広げたかったんです。

――お店では、お客さんが杉本さんに気になる症状を伝えると、体に合った漢方を提案してくれるんですね。

杉本薬局には、100種類を越えるさまざまな漢方薬があります。その中からお客さんの症状や体質に合う漢方を選びます。僕の仕事は、漢方の「セレクター」ですね。西洋医学の場合は、胃が痛いから「胃薬」、眠れないから「睡眠薬」、血行が悪いから「血行を良くする薬」といった処方をしますが、漢方の場合は、お客さんが訴える症状から、さまざまな要素を総合的に判断して、漢方薬を提案します。

 

――お客さんに向き合って、じっくり話を聞かないとわからないですね。

いつからその症状なのか、どういう環境で生活しているかなど、生活スタイルから、こころとカラダの状態まで、細かく聞いていきます。舌を見たり、脈を診たり、顔色を見たり、目の色も見ます。漢方は「いかに相手を理解するか」ということが重要なんです。

――お客さんと向き合う中で、やりがいを感じることや大変なことはありますか?

なによりうれしいのは、体にさまざまな悩みを抱えていた人が、漢方を飲んだら「人生が変わった!」と、喜んでくれることですね。足が痛くて歩くのも嫌だと言っていた方が歩けるようになって、おいしいものを食べに行けたとか、皮膚疾患で困っていた人が人前に出られるようになったとか。大変だったのは、漢方の勉強を始めたころ、同時に経営も見なければいけなかったこと。最初のころは、うまくいかなくてイラっとしたし、不機嫌にもなりました。でもそういう時に、自分の体で漢方を試せたから良かったです。

 

――いまは感情の起伏がないように見えますが、漢方で心を落ち着かせているのですか。

以前は、機嫌が悪い時に漢方を飲むことが多かったですね。最近は、疲れている時やお酒の付き合いの前、原稿を書く前に頭をすっきりさせるために飲んだり……。いまは仕事と遊びを楽しく両立させるために飲んでいます。

――頭をすっきりさせたい時、どんな漢方を飲むんですか?

仕事が忙しくて、ずっと頭がフル回転しているような時に、少しクールダウンさせる漢方を飲みます。僕には鎮静作用がある「レイヨウカク」や、精神の安定をもたらす「ゴオウ」が合います。また、自分の好きな匂いの漢方を混ぜて持ち歩き、ちょっと手首に塗ったり、匂いを嗅いだりするだけでも落ち着きます。

――杉本さんは現在36歳。まだ加齢臭や体臭は感じないですか?

自分では感じていません。他人からはよく「いい匂い」と言ってもらえます。普段、漢方薬に囲まれているので、家とか服とか漢方の匂いがするんだと思います。ハグした時などに「体に良さそうな匂い」って言われます(笑)。

 

――加齢臭や体臭を消す漢方はあるんでしょうか。

漢方ではないですが、「クマザサ」はよく使われますね。胃腸が悪かったり、老廃物が溜まると、体臭が出ます。「クマザサ」には、そういった症状を改善する効果があります。また、臭い、臭くないとは異なる話ですが、体臭も体の状態を把握する一つの要素になり、漢方薬を選ぶ時に参考にしています。

 

――お客さんの匂いを嗅ぐんですか?

もちろん、いきなり近づいて嗅いだりはしないですが、数メートル離れていても匂いを感じることはありますから、お客さんの症状を把握するヒントにしています。たとえば、脂くさい人は「肝」、焦げくさい人は「心」、腐ったような臭いの人は「腎」が不調などと言われています。「自分の匂いが気になる」という方は漢方薬の服用を考えてみるといいと思います。

――自分が好きな匂いの漢方だと、自分の体に合うんでしょうか。

味もそうですけれど、自分にとって心地いい匂いというのは、体が求めている可能性はあります。漢方を飲んでもらう時に、「いい香り」「おいしい」と言われたら、体に合っているのかなと想定します。逆に、「嗅ぐのも嫌だ」って言われたら、理論上は合っていても、この人には合っていないのかなと、処方を変えたりもします。

 

――ご自身がお好きな漢方の香りは?

いっぱいありますよ。基本的に漢方薬の香りは大好きです。なかでも最近の一番のお気に入りは「リュウノウ」かな。リュウノウは何かを発散できるような、スッとする香りです。ストレスが溜まっているのかもしれないですね。

――ところで女性のどんな香りが好みですか?

気になる女性の香りは、だいたい好きな香りですね。また「プルースト効果」で、昔好きだった人がつけていた香水と同じ香りを嗅ぐと、当時の記憶がよみがえります。同じ香水の匂いがすると、すぐ振り向いちゃう。逆に、匂いでイヤになることもあります。「苦手な匂いだな」って思った瞬間に冷めちゃう。嗅覚が敏感なのかもしれないです。

 

――昔好きだった女性は、どんな香水をつけていたんですか。

いいなと思ったら、同じ香りを探してみるのですが、なかなか見つけられなかった記憶があります。なにを使っているか聞けばいいんですが、そこは自力で探したくなるんです。なので、不明です。聞いておけばよかった。それと、思い出の香りと言えば、高校生のころ、好きだった女の子にマフラーを借りたことがありました。マフラーを巻いて「あー、あの子の匂いだ……」なんてクンクン嗅いで、翌日女の子にマフラーを返したら「すぐ返さなくてもいいのに。これ兄貴のマフラーだから」って言われたこと(笑)。

 

――普段はどんな香りを使っていますか?

お香や香水を愛用しています。お店では漢方薬の匂いとマッチして、お客さんが気にならない程度の匂いに、家では来客に合わせて変えています。昔、香水をつけすぎて、親しい女性に、家に帰っても僕の残り香がするといわれてしまったことがありました。香りも漢方と同じく、バランスが大事ですよね。

――フレグランショットの香りはいかがでしょうか。

「無香料」は、ヌードデッサンしたときの練り消しの香り。もしくは授業中、落とした消しゴムを隣の女の子が拾ってくれたときの思い出が蘇りますね。「グリーンウッド」は、針葉樹が見えるお風呂から上がった、バスローブを巻いた女性の香り……なんて。「シトラス」は、何か汚してはいけない香りがします。たとえば、友だちの家の玄関で、若くてきれいなお母さんに挨拶したときの、ちょっとドキっとした香り(笑)。

――想像力が豊かですね。フレグランショットをどういう時に使いたいですか。

疲れている友だちに「こめかみに塗ったらどう?」と言って、グリーンウッドをプレゼントしたいです。こめかみだとスッキリしますよね。もし満員電車に乗っていたとしても、森林浴しているような気分になれます。みんながグリーンウッドをつけたら、きっと満員電車の景色がバスローブの女性がいる風景に変わりますよ(笑)。

 

プロフィール:杉本格朗(すぎもと・かくろう)

1982年生まれ。1950 年創業の杉本薬局(鎌倉市大船)の3代目。登録販売者。漢方をもっと身近に感じてもらおうと、国内外で、和漢植物を使ったお茶づくりワークショップやアートイベントを行う。また、「かまくら晴々堂」や「EN TEA」、「eatrip」との商品開発にも携わる。最近出版された『鎌倉・大船の老舗薬局が教える こころ漢方』が話題に。 

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text:Satomi Itoi photo:Daisuke Yanagi

撮影協力:杉本薬局

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